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記憶の持ち主(試し読み版)

by 三世留男

本作はエピソード5です。各エピソードは出版順に4、1、2、5、3、6とお読みいただけると、より一層お楽しみいただけると思います。

一.アダムとカイン

   戦闘ロボット

 砂埃に霞《かすむ》む遠くの山々は、黄土色一色に塗られた油絵のようにのっぺりと見えた。足元に伸びる平地は、コンクリートのがれきすら朽ち果てて、全てが砂に飲み込まれようとしている。生き物と言えば、背の低い雑草ががれきの日影に身を隠すように手を伸ばしているのみで、黄土色の荒涼とした大地に、くすんだ緑色の雑草がところどころ生えているのが視界に入る。空は鉛色に曇り、青空は見えない。

 はるか遠くで発生した巨大な砂嵐は、徐々に近づき視界を奪っていく。

 その激しい砂嵐の向こう側に、砂の塊のような影が現れた。影は砂嵐にかき消されそうになりながらもうごめいている。

 そして急に風が止む。小さな砂が波のような音を立てて地面に落ちる。

 その砂嵐の切れ間から現れたのは二人の人影だった。

 二人とも茶色のボロ切れをマントのようにまとい、そのボロ布の端で口周りを覆っていた。時折強く吹く砂嵐にボロ布の裾が翻《ひるがえ》る。

 一人は、百九十センチメートルはあろうかという巨体の上半身だけをボロ布で覆い、下半身は黒く汚れた迷彩ズボンをはいていた。きれいに禿げ上がった頭部には、砂嵐から目を守るゴーグルを付けている。

 隣を歩くもう一人は、百七十センチメートルほどの細身の身体で、身体に巻き付けたボロ布を引きずっている。同じようにゴーグルを付け、頭の上に立った黒い髪が風に流れる。

 二人は並んで歩いていた。また砂嵐だ。ザリ、ザリ、とブーツの裏で砂を踏みしめる音ですら、砂嵐にかき消され彼らの耳に届かなくなる。

 砂嵐に向かって少し前傾姿勢になって黙って歩く二人。

 砂嵐の激しいノイズの中にわずかな機械音が混じった。それは二人の進む方向から聞こえてきた。二人は歩きながらその音に集中する。徐々に大きくなってきた機械音は、モータが砂を噛みながら回転する音だった。

「来ましたよ」

 大きいほうの男――大男は、ボロ布で隠した口でつぶやいた。その声に、小さいほうの男――小男は大男の顔を見上げた。

「どうする?」

 二人の前――二十メートルほど向こうには、四本脚のロボットが赤いランプを点滅させて立っていた。迷彩柄に塗装されていたらしい脚は、元の塗膜が剥げてところどころ黒く錆びた金属表面が覗いている。一方、細い脚の上に乗っている台形のボディは砂埃に汚れて天然の迷彩となっていた。

 どこが正面なのかわからないそのロボットは、強い風に対して姿勢を安定させるためか、細い脚を小刻み動かしてウロウロと方向を変えていた。しかし、その赤ランプはあきらかに二人に向けられている。

「逃げるか?」

 小男はロボットを見据えたまま大男に言った。

「いや、逃げたらやつらは仲間を呼んで追ってきます。そして身ぐるみはがされてしまう。この場所でそうなったら死が待っているだけです」

「やるのかい?」「幸い、一体だけですからね」「できるか?」「ブレードハンターのまねごとをしますよ」

 大男はそう言って、くたびれたウェストバックからテニスボール大の黒い球形の物体を取り出した。

「迷走量子拡大装置――『カンタムボム』か。だが、どこに脳ユニットがあるかわかるのか?」

 小男の疑問に、大男はさも当然とでもいうように黙って頷く。

 そのときロボットが発声した。その声は、まるで壊れたテープレコーダーのように間延びして聞こえてきた。

「おとなしく、そこで、止まりなさい。危害は加えません」

 それを聞いて小男は肩をすくめた。ロボットは赤ランプを光らせて近づいてくる。

「動くと制圧します。けがをさせてしまう、可能性があります。おとなしく、止まりなさい」

 ロボットは抑揚のない声で警告しながら十メートルほどまで近づいてきた。二人はゴーグルを通してロボットを見つめている。ロボットの動きを見極めるように、黙って立っている。

――ザッ

 突如、大男は何の予備動作も見せず小さな足音を残して加速した。

 大男はロボットに向かって一気に間合いを詰めていく。しかしロボットもボディを低くして身構えた。すぐそこまで近づく大男。するとロボットの背から丸いボールが飛び出した。それは放物線を描き、大男の前で跳ねた。大男は黒いボールの前で急停止し腕でゴーグルの上を覆った。それと同時に、跳ねたボールは眩《まばゆ》い光の筋を放出した。辺りは光で包まれた。

 光の渦をもろともせず、大男は跳ねるボールを避けてさらにロボットに近づいていく。真っ白い光の中で、ロボットは次の攻撃の準備をし始めていた。背中から銃身が現れる。

――ポン

 空気が弾ける音とともに、銃口から何か発射された。光の中でそれは黒い影のように見えた。

 影はすぐに大きく広がる。そして大男の目の前に広がる網となった。しかし大男はもろともせず突進していく。網は袋状に大男にかぶさっていく。

 捕まる! その寸前に、大男はその巨体を俊敏に動かし、網と地面の隙間にスライディングして逃れた。もう目の前にはロボットがいる。

 大男は走り寄りながら手に握ったカンタムボムのスイッチを入れた。その黒い球体はカウントダウンを始める。

――3、

 ロボットは後退を始めていたが、すでに大男がそのボディの下に潜り込んでいた。そこでしゃがみこんだ大男はロボットの脚を押さえ動きを止めた。

――2、

 大男は手に持ったカンタムボムを確認。黒い球体の内部は妖しく光り、赤色のコロナがうごめいている。

――1、

 ロボットは逃れようと暴れるが大男を引きずるので精一杯である。大男はその状態で、カンタムボムを下からボディに押し当てた。

――0

 ロボットは急停止した。急速冷凍されたように、暴れた姿のまま固まった。

 大男はロボットの下から這い出て、ボロ布とズボンの砂を払った。

 そこに小男が近寄ってきた。

「お見事」

「たいしたことはありません。こいつら――古い戦闘ロボットはこれを知りませんからね」

 大男はカンタムボムを見せながらウェストバックにしまった。「楽になったものです」

 すぐに大男は固まったロボットを乱暴に分解し始めた。小男は首を傾げてそれを見ている。

「なにをしているんだ?」

「こいつが再起動する前に壊しておくんです。それと戦利品をね」

 大男は勝手知ったように手早くボディを開け、中に入っているボールや弾丸を引っ張りだしていた。

「光バーストボールが三個、捕獲弾、麻酔弾、ゴム弾……」

 大男は丁寧に分類しながらウェストバックにしまいこんだ。最後に、ボディ内部にある黒いボックスを引きずり出して、ボディとつながっているリード線を引きちぎった。

「これでよし。さ、坊ちゃん、行きましょう」

 それを聞いた小男は露骨に眉を寄せて大男をにらみつけた。

「坊ちゃんはやめてくれと言っているだろう、サトウ少佐」

 サトウ少佐と呼ばれた大男は「クックック」と面白そうに笑った。

「失礼、アベル。どうしてもわたしより若く見えるものですから」

 小男――アベルは自分の身体を見てため息をついた。

「見た目はね。しかし僕の精神年齢は、サトウさん――あなたより上なんだ。ケイイチローの記憶を全て保持しているからね」

「そうでしたね」

「それより、僕からみればあなたが八十歳の老人には未だに見えないよ」

 大男――サトウは「ハーハッハッハッ」と大きく笑った。が、そのせいで口の中に流れ込んだ砂に顔を歪め、ペッと砂を吐き出した。

「普段の節制のたまものですよ」

 今度は慎重に「フフフ」と笑った。

   生きていた男

 時を巻き戻す。

 サトウはアメリカ大陸の誰もいない荒野でたった一人で暮らしていた。畑を耕し、食物を育て、時折出現する小動物を狩るというサバイバル生活をしながら。アメリカの全都市は、全面核戦争によって全てが破壊された。しかし、もともと人の住んでいない内陸部には核ミサイルが撃ち込まれず、放射能に汚染されることなくそのままの自然を維持していた。放射能がなくても人間が暮らしていくには過酷すぎる環境のせいで、生き残った人間もそこには滅多に近寄らなかった。その中でサトウは矍鑠《かくしゃく》と生き続けていた。

 二〇八四年の年末、そんなサトウの古い情報端末に衛星通信が入電した。

 ノイズが乗るディスプレイに現れたのは白髪と白ヒゲの老人だった。

「随分と久しぶりだ。サトウさん」

 サトウも眉間を寄せていた力を抜いて表情を緩めた。

「ご無沙汰しております、アイバ博士」

 ディスプレイ向こうの顔も緩む。その老人はケイイチロー・アイバ。

 しかしすぐにサトウは怪訝《けげん》そうに眉を寄せて尋ねる。

「よくここがわかりましたね? わたしは死んだことになっているはずなんですが」

 ケイイチローはその問いに片眉を上げて逆に問う。

「最近、誰かと会わなかったかね?」

 サトウは首を曲げて考えていたが、すぐに思い当たったようだった。

「そういえば、ひと月ほど前に近くの町に行って食料やらを買い込んだな」

 ケイイチローは満足そうに「そう」と相槌を打った。

「わたしは、琉球国のミサイル防衛システム『アダム』の能力を活用してフォース社を立ち上げた。『アダム』は地球のネットワークから切り離された独自のネットワークを構築している。わが社の製品であるレプリカントもそのブレインネットワークの一部だ。きみが町で会ったのはレプリカントだ。そこから割り出した」

「なるほどね。で、わたしに何かご用ですか?」

「人捜しを頼みたい」

「わたしなどに勤まりすかね?」

「ひとまず琉球に来てほしい。琉球までの旅費はこちらで負担する」

 というと「ちゃりん」と振り込みを示す電子音が鳴った。

「わかりました。アイバ博士にはずいぶんとご迷惑をおかけしましたから、そのお詫びも兼ねて出向きますよ」

「ご足労掛けるが、よろしく頼む」

 プツンと消えたディスプレイには、満足そうに笑うケイイチローの残像が残っていた。

   博士との再会

 荒れ果てたハイウェイを数少ないホバーカーが飛び交っている。その中の一台にサトウは乗っていた。サトウは琉球国に行くため、アメリカ大陸の西海岸沿いにあるシャトル発着場に向かっていた。ホバーカーの窓から見えるアメリカの景色は絶望的なほどに荒れている。サトウはその景色をぼんやりと眺めていた。

 いくつかのさびれた都市を通過し、ついに西海岸――もとロサンゼルスのサンタモニカに到着した。海岸には観光客などは一切いない。片づける者のいないがれきが遠くまで広がっている。そのがれきの中に埋もれているのは、往時を偲《しの》ばせる看板だ。場違いなようにカラフルな看板が、一層もの悲しさを誘う。

 砂の中に朽ち果てていこうとするがれきの向こうには、窓のない灰色のビルがいくつか建っている。時折それらのビルから人が出入りしていることから、生き残った人々はその中で生活しているようだった。

 琉球入国審査所と発着場はそんな建物群の中にあった。ホバーカーを降りたサトウは、琉球入国審査所のビルに入った。汚染管理ゾーンを抜けると、ガーネット色の絨毯《じゅうたん》の敷かれた清潔なエントランスが目の前に広がる。そのフロアにいるのは、スタッフを除けば、ほんの数組の人たちだった。

 サトウはフロントで受付を済ませると、入国審査を特別枠であっけなく通過し、すぐにシャトルに乗ることができた。

 全ての乗客が審査を終えるまで小一時間かかるということを聞いたサトウは、シャトル内の個室でウトウトとまどろんでいた。

 *

 そして気が付くと、すでに琉球国に到着していた。サトウはそのまま眠り込んで前後不覚になっていたのだ。到着のアナウンスにあわてて身を起こしたサトウは、自分の油断に深いため息をついた。

――ずいぶん錆びついたものだ

 そうつぶやき薄く笑った。

 シャトルを降りてカウンターを通り抜け、豪華なエントランスから外に出ると、そこには琉球の美しい都市が待っていた。青い空に清々しい空気。揺れる木々の合間には、自然と調和した建物が並んでいる。

「美しい」

 サトウはその景色に目を奪われた。

「これがわたしたちが守った沖縄……」

 サトウは瞼を閉じて大きく深呼吸した。

 満足げな笑顔を浮かべて見回すサトウの前に、リムジン型のホバーカーが静かに停車した。促されるままに乗り込むと、ホバーカーは静かに出発した。

 ホバーカーは近代的に作り上げられた都市の中を走り抜け、自然の残る郊外のハイウェイに乗った。

 しばらくの間、手つかずの森の中を飛びぬけていく。すると突然、目の前に広大な平地が現れた。

――嘉手納か

 サトウはもう使われていない飛行場を見て、懐かしそうにつぶやいた。

 旧嘉手納基地の中に作られた道路を進む。行く手にはいくつもの巨大なプラントがそびえている。プラントを両手に見ながら、きれいに舗装された道路の上をホバーカーが滑るように飛んでいく。様々な種類の建物を通り抜け、ホバーカーはようやくある建物の前で停車した。

 その四角の建物は、周囲にある巨大なプラントに対して場違いなほど小さかった。もとは白かっただろう壁は灰色に薄汚れ、いくつもひび割れが入っていた。

「やれやれ、まさかここに戻ってくる日が来るとはな」

 ホバーカーを降り、その建物を見上げたサトウは苦笑していた。

 一つしかない入口扉を開け、暗い廊下に入る。あちこちに張られた蜘蛛の巣を払いながら、勝手知った様子で迷うことなく廊下を進んでいく。そのまま階段を下り切り、躊躇《ちゅうちょ》なく地下の扉を開けた。

 サトウの目の前に二十畳ほどの空間が開《ひら》ける。壁一面を気体配管、液体配管が埋め尽くし、その間をのたうつように電線が這《は》い回っている。それはまるで、怪物の臓物の中に迷い込んだような光景だった。

 サトウが部屋の中をぐるっと見回していると、奥の赤錆びた扉が重苦しい音を立てて開いた。サトウは扉の向こうに注目する。扉の奥からは白衣を着た一人の老人が現れた。続いて、スーツを着こなした若い男性二人が出てきた。二人は双子のようにそっくりで、スーツの色でしか区別できそうにない。一人はネイビー、一人はグレーのスーツを着ていた。

「わざわざすまんね」

 白衣を着た老人は、年齢を感じさせるヨロヨロとした足取りでサトウに近寄り握手を求めてきた。サトウも微笑んで応じる。

「お久しぶりです。アイバ博士」

 そう言って二人はきつく握手を交わした。

 その後ろで二人の若者は、物珍しそうにサトウとケイイチロー・アイバの様子を見つめていた。

   捜索に旅立つ

「とにかく座ってくれ」

 部屋の中央には赤色の応接セットが一式置かれていた。ケイイチローはソファに座るよう促《うなが》した。サトウは「失礼します」と、ドカリと座った。少しくたびれたソファはミシミシと軋《きし》みながら沈み込み、大柄なサトウの身体をなんとか受け止めた。

 ケイイチローと二人の若者もゆっくりと座った。

「紹介しよう」

 ケイイチローは両脇に座った二人の若者の紹介を始めた。

「こっちのネイビーがアベル、グレーがカインだ」

 アベルとカインは、笑顔を作って同時に立ち上がった。それを見てサトウも手すりに手をついてゆっくりと立ち上がる。

「よろしく。わたしはマモル・サトウ」

 サトウはまずアベルに手を差し出しきつく握手した後、同じようにカインの手も握って振った。アベルとカインも、自分の名を名乗って握り返した。

 握手を交わした三人は打ち解けた表情になって、またゆっくりとソファに座った。

 ケイイチローは両脇に座るアベルとカインに説明を始めた。

「このサトウさんは……」

 ケイイチローの言葉をカインが遮る。

「存じ上げております。沖縄――琉球独立に貢献した方ですね」

 アベルも口を挟んだ。

「当時の沖縄知事の代わりに、ここの中央コンピュータ『アダム』に行政をやらせるというナイスアイデアを実行した人だ。それからヨーロッパ戦線では傭兵としてずいぶん活躍したと聞いている」

 サトウは広い額にしわを寄せて驚いた表情になった。ケイイチローは苦笑してサトウの顔を見た。

「すまんね。アベルは少し横柄《おうへい》な性格なんだよ。カインは逆におとなしいんだが」

「わたしのことを良く知っているんですね」

 サトウは髪のない頭をなでながら尋ねた。

「うむ。彼らはレプリカントだ。それも特別なね。彼らにはわたしの記憶を完全にバックアップしてあるんだよ。だからわたしの保持しているきみの情報も彼らはすでに知っているというわけだ」

「そんなことができるんですか?」

 サトウはさらに驚いたように目を丸めた。

「レプリカントの脳細胞に情報を転送できるのはフォース社独自の技術だ。これはガーゴイル社にはない」

 ケイイチローは得意げに片眉を上げてニヤリと笑った。

 しばらく四人は昔話に花を咲かせていた。もちろんアベルとカインは、ケイイチローの記憶を持っているだけで体験はしていないわけではあるが。

「ところで、人捜しというのは?」

 話の切れたタイミングで、サトウはケイイチローに切り出した。

「うむ……実は、娘の行方を捜してほしい」

「娘さん?」

「名前はシユイ・アイバ」「知っています」「覚えていたかね」「ええ、忘れられませんよ。あの奇跡の夜は」「核戦争で地球がめちゃくちゃになったとき、わたしは火星にいて難を逃れることができた。しかし、シユイは地球にいたのだ」「それは……残念でした」

 サトウは神妙な表情になってうつむいた。ケイイチローも眉を寄せて床を見つめている。しかしその隣でアベルはニヤニヤと笑っていた。

「悲しむ必要はない。シユイは核戦争を生き延びたという情報があるんだ」

 カインも冷静な表情を変えずに付け加える。

「シユイは核戦争後、ここ琉球国に滞在していたという情報もありますが、それ以降の足取りはつかめておりません」

 二人の補足にケイイチローは顔を上げて頷く。

「わたしはシユイが今でもどこかで生きていると信じている。だからその行方を今でもずっと捜しているのだ。これまでは日本のあちこちを捜していたが、残念ながらまだ行方をつかめていない。そこで捜索範囲を広げようと考えている」

 サトウは納得したようだった。

「わたしが協力できることでしたらなんなりと。シユイくんには借りがありますからね。わたしの考えを変えてくれたという借りがね」

「そういってもらえるとありがたい。きみにはヨーロッパを捜してほしい。傭兵生活でヨーロッパの状況にも明るいだろうからね。サポートとして、アベルとカインのどちらかを連れていってくれ」

「いいんですか?」

「ああ。彼らはわたしの記憶を全て保持しているから役に立つこともあるだろう」

 サトウは、そっくりな顔のアベルとカインを見比べた。アベルは笑顔で見返してくる。一方のカインは静かに目を伏せていた。サトウは顎に手を当てて少し考えていた。

「では――そうだな、アベルを借ります」

「アベルでいいのだな?」

「ええ。まぁどちらでもいいのですが――なんとなくね」

 それを聞いたアベルはガッツポーズした。「よし!」

 それを見てケイイチローは「これ」とたしなめた。

 カインは特に感情を露《あら》わにすることなく黙ったままだ。

 サトウは二人の様子を見て尋ねる。

「なにか問題でも?」

 ケイイチローは大きく息を付いて説明する。

「彼らはどちらが選ばれるかという賭けをしておってな。選ばれなかったほうは、日本で調査しているわたしの分身の後釜に決まっているのだ。つまり、カインが日本に行くことになった」

 アベルは喜びを前面に押し出していた。カインは少し寂しそうにうつむいている。ケイイチローは、そんなカインを横目で見ながら続けた。

「カインは日本でわたしの分身――ケイが蓄えた記憶を引き継ぐために、今までの記憶を全て消去する。まっさらな状態で日本に行って、そこでケイの記憶を少しずつ転送することになる」

 ケイイチローは「いいな」とカインに念を押した。カインは「はい」と小さな声で返事をした。

 アベルは「助かったよ、サトウさん」と笑顔でサトウに礼を言った。そして、うつむくカインに声を掛ける。

「カイン、そう落ち込むなよ。次に会ったときは僕がきみの代わりになるからさ」

サンプルはここまでになります。

続きは購入してお楽しみください。

イラスト 己時クナイ

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